×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「卵を孵す」
//////////////////////////////////
ひとつのデジタマ。得たものはそれだけ。
失ったものは多い。得られなかったものも。
涙がぽた、ぽた、とこぼれた。タマゴの表面に留まることなくつたい落ちた。
帰ろう。とタマゴに声をかける。抱きかかえるに丁度いい大きさ。
すっぽりと両腕の中に収まって、あぁ他に何も持つことができない。
いつの間にか投げ捨てていたデジヴァイス――D-3だかD-アークだか正しい呼び名は忘れたままだ――を広ってズボンのポケットに突っ込む。
キラキラと弱々しい星のような光の道を、来たときと同じように突き進んでいく。命を燃やした皆の献身に、見合うだけの結果を、出せたのだろうか。
エニアックが合成音声で出迎える。
『オカエリ、リョウ』
耳慣れた無機質なこの音声に、感情を投影して聞いてしまう。ただの決まり文句、システムメッセージではなく、心からそう言ってくれたのだと、自惚れてもいいだろうか。
「ただいま、エニアック」
ぴょこぴょこと、散っていたデジモンたちが集まってくる。
「リョウ?」「リョウが勝った!」「おかえりなさい」「怪我してない?」
口々にわっと喋り出す。
「あれ、モノドラモンは?」
その疑問に、胸がずきんと痛む。
抱えていたデジタマを、エニアックに見せるためにそっと床へ置いた。
「ミレニアモンを戦いで倒すことはできなかった。モノドラモンがミレニアモンとジョグレスして、このデジタマが残った」
チ... チチ...... とエニアックの演算する音が響く。
『鼓動ガ、聞コエル』とエニアックが言う。悪い心だ、と。
“もし悪いデジモンに――”
モノドラモンの台詞が耳に蘇る。
元通りのあいつかもしれない。でも、もしもミレニアモンで生まれてきたとしても、今度こそ俺たちは、ベストパートナーになりたい。
俺のパートナーを悪いデジモンだなんて言わせない。もしそう言われたのならそれは、テイマーである俺の責任だ。こいつのせいじゃない。
なぜなら。生まれてくるこいつをこれから育てるのは、俺だから。
「エニアック、このデジタマは孵す。俺が責任を持って育てる。だから」
『ハ、ハ、ハ。生マレテクル命ニ、良イモ悪イモナイ。本当ハ良イ心ノ鼓動ガ聞コエタ。安心スルトイイ』
エニアックが笑い声のようなノイズでふるえる。
「どちらでもいいさ。俺はこいつと……これからゆっくり俺の記憶を探す旅にでも出るよ」
『好キニスルトイイ。未来ヲ決メルノハ、イツダッテ子供ダ』
チ... チチ...... とエニアックが重そうに鳴いた。
//////////////////////////////////
ひとつのデジタマ。得たものはそれだけ。
失ったものは多い。得られなかったものも。
涙がぽた、ぽた、とこぼれた。タマゴの表面に留まることなくつたい落ちた。
帰ろう。とタマゴに声をかける。抱きかかえるに丁度いい大きさ。
すっぽりと両腕の中に収まって、あぁ他に何も持つことができない。
いつの間にか投げ捨てていたデジヴァイス――D-3だかD-アークだか正しい呼び名は忘れたままだ――を広ってズボンのポケットに突っ込む。
キラキラと弱々しい星のような光の道を、来たときと同じように突き進んでいく。命を燃やした皆の献身に、見合うだけの結果を、出せたのだろうか。
エニアックが合成音声で出迎える。
『オカエリ、リョウ』
耳慣れた無機質なこの音声に、感情を投影して聞いてしまう。ただの決まり文句、システムメッセージではなく、心からそう言ってくれたのだと、自惚れてもいいだろうか。
「ただいま、エニアック」
ぴょこぴょこと、散っていたデジモンたちが集まってくる。
「リョウ?」「リョウが勝った!」「おかえりなさい」「怪我してない?」
口々にわっと喋り出す。
「あれ、モノドラモンは?」
その疑問に、胸がずきんと痛む。
抱えていたデジタマを、エニアックに見せるためにそっと床へ置いた。
「ミレニアモンを戦いで倒すことはできなかった。モノドラモンがミレニアモンとジョグレスして、このデジタマが残った」
チ... チチ...... とエニアックの演算する音が響く。
『鼓動ガ、聞コエル』とエニアックが言う。悪い心だ、と。
“もし悪いデジモンに――”
モノドラモンの台詞が耳に蘇る。
元通りのあいつかもしれない。でも、もしもミレニアモンで生まれてきたとしても、今度こそ俺たちは、ベストパートナーになりたい。
俺のパートナーを悪いデジモンだなんて言わせない。もしそう言われたのならそれは、テイマーである俺の責任だ。こいつのせいじゃない。
なぜなら。生まれてくるこいつをこれから育てるのは、俺だから。
「エニアック、このデジタマは孵す。俺が責任を持って育てる。だから」
『ハ、ハ、ハ。生マレテクル命ニ、良イモ悪イモナイ。本当ハ良イ心ノ鼓動ガ聞コエタ。安心スルトイイ』
エニアックが笑い声のようなノイズでふるえる。
「どちらでもいいさ。俺はこいつと……これからゆっくり俺の記憶を探す旅にでも出るよ」
『好キニスルトイイ。未来ヲ決メルノハ、イツダッテ子供ダ』
チ... チチ...... とエニアックが重そうに鳴いた。
PR
カテゴリー
最新記事
最古記事
ブログ内検索